初夏
殆ど忘れたけれども
翳りある記憶の果て
思ひ出すことがあつた
夏の初めの物語
僅かに熱を帶びた風
無音の雨が降る
川沿いの國道で
一人ぼつち歩いてゐる
何時から私はかうして
あの頃といふ云葉に
踊らされてゐるのだらうか
夏の初めのかげらうに
少しも隈ない空の藍
無音の雨は溶け
眩しくて目を細めてゐる
一人ぼつち泣いてゐる
儚いあの季節が來た
雲間から空が見える
雨の音に耳を澄まし
これでいゝと思つてゐる